医学を志す皆さんへ
 医学部進学を目指す本校生、本校医学コースを目指している中学生など、将来医師や医学研究者になりたいと考えている皆さんに、医学・医療の世界で活躍する本校卒業生等の皆様からメッセージをいただきました。

 金子 猛(昭和54年卒)

   横浜市立大学大学院医学研究科 呼吸器病学主任教授 


          医学部の学生生活は「ワクワクドキドキ」の連続です

 私は、現在、横浜市立大学医学部で呼吸器内科の教授を務めており、医学部の学生と毎日関わる仕事をしています。横浜市大の医学部生の学生生活を紹介しますので、医学部に合格すると皆さんを待っている「ワクワクドキドキ」の生活を想像して勉強の励みにしていただければと思います。
 入学してすぐの1年生は教養科目の講義があり、医学についての勉強はお預けになります。2年生から3年生の前半までは基礎医学の講義と実習があり、生命の神秘に触れる人体解剖も経験します。3年生の後半になると、いよいよ内科や外科などの様々な病気について学ぶ講義が始まります。4年生では、リサーチ・クラークシップ(研究実習)という、基礎医学あるいは臨床医学の教室に配属となり(海外の提携している研究室に行くことも可能)、3ヶ月間毎日実験に明け暮れる実習があります。一人ずつ研究テーマをもらい実験に励み、実習期間の最後に全員で研究成果を発表し合い、優秀者が表彰されます。その後も放課後などの時間を使って研究を続ける学生もおり、学会で発表したり、英語の論文にまとめたりして学生時代に業績を残すこともできます。将来基礎研究の道に進む人もいるし、臨床に進む場合でも研究は重要なので、学生時代の研究の体験はとても貴重です。
 そして、医学教育の総仕上げとして、4年生の終わりから6年生の半ばまで、医療を間近で経験する臨床実習があります。臨床実習を開始する際には、医学知識を評価する試験と診療技能や態度を評価する実技試験の両方に合格しなければなりません。合格すればスチューデント・ドクターとして認められ臨床実習が許可されます。私の呼吸器内科でも3週間ずつ実習を行います。病棟では、チームの一員として入院患者さんを受け持ち、入院診療に参加します。週一回の教授回診の際には、受け持ち症例の経過や治療方針などについて、英語でプレゼンテーションを行います。さらに、外来実習では、初診の患者さんから受診の理由や症状について話を聞き、診察をさせてもらい、その上でいくつかの病名を推測し、これらの診断のために必要な検査を考えるという、謎解きにも似た外来診療の醍醐味を体験します。
 病棟実習が終わると卒業試験があり、これにパスすると医師になるための最終関門である医師国家試験が待ち構えています。合格率は約9割で、普通に勉強していれば落ちることはありません。横浜市大の合格率は、昨年全国2位、今年は3位の成績で、ともに合格率は97.7%でした(私が医師国家試験対策の担当をしています!)。
 横浜市大の医学部では、海外の大学病院や研究所で診療や研究の実習を経験するプログラムが充実しており、約2割の学生が米国を中心に海外での実習にチャレンジしています(https://www.yokohama-cu.ac.jp/ytog/global/med_overseasprogram.html)。
 こうした海外での実習には、英語でのコミュニケーションスキルが重要になります。また、将来、国際学会で発表したり、英語で論文を書いたりすることが必要になりますので、英語を得意科目にしておくのが理想です。そして意外に重要なのが、日本語の文章力です。医師になると、紹介状や入院のサマリー、研究費の申請、論文など文書を毎日書く機会が沢山ありますが、簡潔で理解しやすく相手に伝わる文章を書くことは容易ではありません。文章を書くことが苦手なまま医師になってしまうと苦労することが多いと思います。普段から様々な文章や手紙を書く習慣をもち、英会話の勉強もしておくと良いと思います。
 病気を治し、人の命を助けることができるのは、医師しかいません。医師は、忙しいながらも、やり甲斐のある、誇りを持てる職業です。近い将来、皆さんと一緒に医療の世界で働けることを楽しみに待っています。頑張ってください。

 菅野 雅元(昭和47年卒)

   広島大学大学院医系科学研究科・免疫学 名誉教授 


   VUCA時代の基礎医学と臨床医学

 最近、ビジネスをはじめ多くの分野で「VUCAの時代」つまり予測不能な時代」という単語を耳にしますが、医学領域では当たり前の感覚です。医学領域では、「何が起きるかわからない」、「教科書に書いてあることが覆る」、「教科書的な(典型的な)患者は居ない」と言った感覚は、誰でも持っています。水戸一高・応援団(医学部進学)に寄せられるメッセージの大部分は、多分、臨床の現場からのメッセージだと思います。私は基礎医学研究の立場からメッセージを書いてみます。
 医学部学生の大部分が進む(臨床医学)「臨床医」はわかりやすいと思います。しかしそれ以外にも(社会医学)「厚労省で医療行政に携わる」、「疫学調査」「公衆衛生」「法医学」、と言った分野があります。さらに(基礎医学)「基礎研究医(研究者)」「病理医」なども重要です。私は主に「基礎医学研究」の中の「免疫学」という分野の研究に携わっています。どの道に進むかは、あなた方次第ですが、臨床医以外の選択肢もあることを知っていてください。
 「目の前の患者さんを治療する事」は、当然ながら重要ですし、皆さんの医師のイメージに最も近いでしょう。仮に、医学部を卒業してから50年間、毎日20人の患者さんを診察・治療したとして、何人の患者を救えるでしょうか? 単純計算で20人X5日x52週x50年=約26万人になります。これはすごい事です。
 しかし、例えば、世界中に3500-4000万人いるHIV/AIDS患者をどうすれば治療できるでしょうか?  2017年には、世界中で約100万人がHIV関連の疾患(原因)で死亡しています。他にも、癌、感染症(高病原性鳥インフルエンザ、O157病原性大腸菌、薬剤耐性菌、など)、アレルギー(アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギー、など)、神経変性疾患(アルツハイマーなど)、生活習慣病、その他、多くの難病、があります。これらは、対症療法はあるかもしれませんが、「なぜ病気になるのか?」という基礎が分かっていない事が多く、そのため、根本的な治療法の開発には苦労しています。もし、あなたの研究の結果、何か一つ「Breakthrough」があれば、その治療薬で世界中の患者を助けられる可能性があります。一例として、2018年のノーベル医学生理学賞の受賞者である本庶佑先生(私の師匠の一人です)、JimAllison先生は、二人とも「ガン研究者」ではありませんが、彼らの基礎研究(免疫学)から発展した新しい「ガン免疫療法」が世界中で成果を上げており、今後さらに広がると思います。本庶先生は、「ガン」という病気は、あと10−20年もすれば、「死に至る病」ではなく「単なる慢性疾患」になるだろうと、予測しています。基礎医学研究は、大変ですし、失敗も多いのですが、その成果により、世界中の患者を助けることができる可能性があります。皆さんの中で「好奇心旺盛な学生さん」が、基礎医学研究の道に入ってくれることを期待しています。

注釈:Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity、の頭文字です。単語の意味は自分で調べること。


    川本 俊輔(昭和62年卒)

   東北医科薬科大学医学部心臓血管外科学教室 教授


   医学を志す皆さんへ

 医学部進学を志す皆さんは,医学・医療に携わるとはどのようなものであるとイメージされているでしょうか?
 私は医学部を卒業後,臨床医の道に進み外科医になりましたが,外科医になるには,人並み以上に器用であることが求められるかというと,必ずしもそうではないと思っています.最低限「自転車に乗れて,お箸でご飯粒をつまんで自分の口に運べる」くらいの能力があれば,手術はできるようになると信じています.手術は手先でやることではなく,そこには比較的シンプルな原理原則と理屈があり,その理論に則りながら頭(心とも言えるかもしれません)でするものだからです.私はいまでも手術をするたびに「外科手術というものは,病気を治すためという目的のために患者さんのお身体にメスを入れ,一時的にせよ傷つける行為であり,他の動物にはみられない人間ならではの行為」であるという責任の重さを実感しています.
 また医師の仕事は,おそらく他の職種と比較して自分の裁量が大きいのではと感じています.「今日はこれをやろう,今日はどこまでやろう,今日の仕事はここまでにしよう」と仕事の内容・レベル・達成度を自分で決めることがほとんどです.もちろん,それは完全に自分自身だけでコントロールできることではなく,治療を受けに来る患者さんの病状などによる要件を受けて,どうするかということではありますが,「これでよし!」とするレベルを自分で決めなくてはならないことが多くあります.
 医学は,人間という動物の体内で起きていること(人体のしくみや病気の原因など)を解明し理解するという「純粋な科学(サイエンス)」です.そして,医療は,医学の知識や技術を患者さんのために活用する社会的営みです.また,医療は「仁術」とも言われ,自分の興味関心のために行うことではなく,他の人々のために行うものです.また,医療は一人では決してなし得ず,患者さんやそのご家族,そして一緒に協力してくれる他の医療スタッフとコミュニケーションをとりながら進めなくてはなりません.
 ですから,もし皆さんが臨床医を志すのであれば,「リーダーシップをある程度発揮できること」また「セルフコントロールができること」,そして何よりも「目上の人を含めた周囲の人々と良好にコミュニケーションがとれること」が大切になってきます.ただ,これも学生時代に達成しなくてはならない訳でもありませんから,そういう大人になることを意識して,学生時代に勉学だけでなく,多くのことに一生懸命に取り組んでいただきたいと思います.


   大橋 俊夫(昭和42年卒)

  信州大学名誉教授
  信州大学医学部特任教授(メディカルヘルスイノベーション講座)   
  日本リンパ学会理事長
  連絡先:ohhashi@shinshu-u.ac.jp

医師・医学研究者を目指すあなたに

 医学の始まりはギリシャ時代に遡ると思います。人が「人間とは何か?」、「自分とは何者か?」と疑問を抱いたところから医学は始まっています。そうした疑問を解くために、ある人は哲学に、ある人は文学に、ある人は芸術などを極めようとしました。科学的に解明してみようと言う人たちによって生み出されてきたのが医学(medicine)だと思います。ですから医学は決して理数系ではなく、文学や歴史など幅広い知識が含まれた応用科学だと思います。
 この医学には病気の患者さんの苦しみや不安を取り除いてあげる「臨床医学」とその病気の原因や診断・治療の方法を研究する「基礎医学」と病気の予防やその方策などを解明する「社会医学」の3つの大きな柱が有ります。「臨床」と言う言葉は宗教用語で「死に瀕していて床に伏している」と言う意味です。医療にも手段が無くなったら祈るのみです。ですので、「臨床医学」の基本は患者さんの「患」の漢字のとおり、心の串すなわちこころの不安を取ってあげる事が最終ゴールです。ただ腕がいいだけでは済まない事は分かるでしょう。医師になる前に、人である自分を磨くことが必要です。
 一方、「基礎医学」は主に医学研究が中心です。私の専門としている学問が生理学です。英語で「Physiology」と言います。ノーベル賞の対象にもなっています。皆さんが学んでいる物理学「Physics」と語源が同じで、ギリシャ語の「Physis」(宇宙を含んだ自然と言う意味)に由来しています。宇宙を含んだ自然界に生きている生物体に潜んでいる原理・原則・法則を体系化した学問です。物事を筋道立てて論理的に考える力は研究に没頭してみると身についてくる力だと思います。同時に常に自分の仕事にフィードバックを掛け、思索を深め、内省する力もついてくるように思います。医学部には他の学部と違って卒業論文と言うのがありません。ですので、その訓練を学部の時にするのはとても難しいのです。その代わりに国家試験があって、それに合格しなければ医学部を卒業しただけでは医師にはなれません。
 現状の日本の医療体制では、医学部卒業して国家試験に受かると2年の初期研修が義務付けられています。更に専門医を取得するには数年間臨床に集中しなければなりません。いくら早く行っても30歳を過ぎてしまいます。各大学は医学研究の衰退、医学研究者の激減を防ぐために様々な方策を講じています。ですがなかなか最善策はありません。
これを乗り越えるためには、研究も診療も世界トップレベルで実践している人生の師、先生を見つける事です。先生は日本のみならず、世界のどこかにいるかも知れません。「自分は何者なのか」の答えを得る為に医学の研究を一緒にしてみませんか。お会い出来る事を楽しみお待ちしています。

  藤原 浩(昭和52年卒)

   金沢大学
   医薬保健研究域医学系医学類生殖・発達医学領域産科婦人科学 教授



       医学部進学を目指す皆さんへ

 私は現在金沢大学医学部産婦人科教室の責任者を務めています。産婦人科は女性の一生に深く関わっている診療科であり、受精卵から新生児、その後は思春期を経て妊娠、出産を経験し、さらに閉経期から老年期に至る女性を対象としています。iPS細胞に代表されるような再生医療は一人の人間が生き延びるための臓器再生を目指すのに対して、産科学は体外受精や帝王切開など新しい生命の誕生、すなわち世代を超えた生命の再生を取り扱っています。生命の誕生にはまだ多くの謎が残されており、例えば妊娠中に母体が別人である胎児を拒絶しないまま子宮内に宿している現象も現在の免疫学では十分に解明されていません。一方で婦人科学は卵巣癌や子宮癌などの悪性疾患に対して手術療法や薬物療法も行っています。
 私は昭和52年に水戸第一高等学校を卒業して京都大学医学部に進学しました。医学生時代に個体発生の制御機構と成人細胞の癌化機構に共通に関わる因子の存在が示唆されはじめ、それに興味を持って発生・発達と癌治療を同時に扱う産婦人科を選択しました。現在は生命の誕生や癌の治療の現場に携わっており、臨床知見と基礎実験に基づいて、発生から癌に横断する新しい機構の提言と、それを応用した新しい治療法の開発を試みています。
 実際の医療ではこれまでの知識で説明できない病態に多々遭遇します。大学の教官として指導する医学生、専攻医、大学院生には、あまり疑問を持たずに整然と既知の病気に分類してしまうタイプと、何か違和感を感じて「なぜだろう」と立ち止まり考えるタイプが存在します。前者はいわゆる秀才型に多くみられますが、この能力は近い将来確実にAIに取って代わられます。後者はオリジナルな研究が期待できるタイプですがこれだけでは不十分です。新しい病態の提言や新規の診断法・治療法を開発するためには、自身が感じた「引っかかり」をさらに解析して「新しい発見」として整理する能力が必要です。
 大学入試に出てくる問題にはすでに正解(答え)が存在しています。高い点数の獲得には解き方を知っていることが有効ですが、医学の領域で私どもが期待する能力はそれだけではありません。常に疑問を持って観察し、何か新しい知見に出会った際に立ち止まり、新しい解答を発見できる人材を求めています。この姿勢は、オリジナルな研究の端緒となるだけではなく臨床においても「正しい診断」や「医療事故の防止」の基本となります。自身の高校時代を回想しますと、母校にはこのような生徒の姿勢を潰すことなく、その個性と感性を自然と育む校風があったように感じます。
 また他の仕事と同様に医療においても患者さんをはじめ医療チーム内で良好な人間関係を構築できなければ診断や治療で最良の結果は得られません。感性が異なる仲間が多いほど正しい診断や新しい発見に繋がります。多感な中・高校時代に個性豊かな信頼できる仲間を多数有し、意見を言い合えるような経験を積むことは将来大きな財産になるでしょう。
医学部進学を目指す皆さんには、疑問を感じて立ち止まる自身の感性をさらに磨き、そして各々の個性を尊重しつつ議論できる能力を育成することを学生時代の目標の一つに掲げながら、日々の勉学に勤しんでいただきたいと願っています。
   
  田畑 俊治(昭和59年卒)

   東北医科薬科大学医学部外科学第2教室(呼吸器外科学)教授


   医学部進学を目指す皆さんへの忠告

 平成23年3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災では、高さ20mの巨大津波が東北から北関東にかけての太平洋沿岸地区を襲い、2万人を超える尊い命が奪われました。私が勤めていた病院のある宮城県沿岸地区ではその半数の1万人が亡くなりました。  あの夜は、澄み切った西の空にはたくさんの星が見える一方で、白煙で澱んだ東の空には全域停電の暗幕に仙台港のコンビナート火災の赤い炎だけが投影され、静寂の中に時折、爆音が轟く異様な光景でした。当院は停電とバックアップの自家発電機が壊れ、医療機器が動かせず、救急患者の受け入れができず、道路の寸断で津波被害者の救助に行けず、ライフラインが全滅した中で、300人近くの入院患者と1000人の避難民とが病室や廊下で体を寄せ合って一夜を過ごしました。院内の災害マニュアルにはライフラインの全喪失は想定されておらず、全国からの支援物資が届く翌日午後までサバイバル生活を敢行しました。震災直後から病院周囲の桜の木を職員総出で伐採し、燃えやすい院内にあった医学雑誌とともに燃料として夜通しドラム缶で火を焚いて暖をとったり、米、具のない味噌汁を炊いたりしました。また、1300本の飲料水を確保するために病院内外の自販機を叩き壊しました。情報はラジオのみで、救助や支援物質がいつ来るのか全くわからない状況下で、患者や避難民の「いのち」を守るために咄嗟に考えた行動でした。あれから8年が経ち、4月からその病院が日本で38年ぶりの医学部新設の大学病院として再出発します。  9月からはここで地域医療、救急医療、災害医療を中心に学生が臨床学習し、3年後には東北の医療過疎地域で活躍できる医療人として旅経つ予定です。私は震災後、実家が被災した茨城県に戻ることも考えましたが、震災後の様々な難局を一緒に乗り越え、東北の再生に思いを寄せる有志たちとこの事業に参加することを決めました。君たちが目指す仕事は、このような「いのち」に関わる仕事なのです。自分や家族は二の次とし、患者や市民に対する犠牲愛の仕事です。学生には講義の中で実体験を織り交ぜながら「いのち」を守る知識や技術を教えています。患者からの「ありがとう」を支えに日々精進しなければいけない仕事であることを肝に命じて進学してきてください。


  石橋 忠司昭和46年卒)
 
   東北大学名誉教授 (画像診断学)



    時代の変化は早いもの(夢を目指してコツコツと努力)

 医学の進歩は目覚ましく、特に再生医療、遺伝子診断、高度化された医療機器開発によって高度先進医療の発展、臓器別の専門化が進んでいます。一方では、総合的に診療能力を有する総合診療医不足も叫ばれています。疾病構造も変化し、交通外傷のような救急車で運ばれるような急性期の病気は減少し、生活習慣病、がんなどの難治性疾患が増加しています。日本では高齢化社会が進行しており、予防医学や健康増進といった分野の重要性が増しています。皆さんが将来一線で活躍されている頃は、新専門医制度が浸透し、医師の働き方に変革が予想されます。
 私個人の経験で恐縮ですが、1978年頃の放射線診断学は消化管二重造影検査で早期胃癌を発見することが盛んな程度でCT,MRIの装置もありませんでした。その後、消化管検査は内視鏡の発達で廃れてしまいました。時代の変化は早いものです。しかしCT,MRIの普及によって放射線診断学という専門領域が急激に発展してきました。まさに、機械のお陰です。CTは1979年、MRIは2003年ノーベル医学生理学賞受賞を受賞していますが、いずれも研究開発に携わった医師と物理学者に与えられました。また、がん治療の領域でも放射線治療の役割も大きく変わりました。がんの治療は抗癌剤による薬物治療と外科療法とが主流でしたが、切らずに直す治療として放射線治療が注目されました。がん病巣に正確に局所的な放射線を照射できるシステムが開発されたためです。このように放射線医学は、理工学などの進歩の恩恵を受け、ダイナミックに変革してきました。今注目されている研究の一つに、自動診断(Artificial Intelligence=AI)があります。皆さんが活躍する頃は当たり前になっているでしょうか。今後も想像できないような技術革新があるかもしれません。
 医師に求められることは、幅広い知識とチーム医療のリーダーとしての適切な判断です。医学部は6年、医師国家試験合格後、医師となりますが、その後2年の初期研修が義務化されています。さらに、専門医を目指したり、大学院での研究を行うことになります。医師は生涯教育が求められています。一人前になるには多くの時間がかかります。医学部は他学部よりも講義時間が多く、覚えることも膨大で、勉強がいやになることもあるかと思います。しかしコツコツと努力していくことが大事です。患者さんをはじめ、他職種とのコミュニケーション能力も必要です。国際化対応やIT技術対応も求められます。次世代を担う皆さんには、いろんなことに興味を持ち、探究心を維持しつつ、チャレンジしてくれることを期待しています